AAMT「MTユーザーガイド」著作権侵害事件の総括

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2022年9月26日にAAMT(アジア太平洋機械翻訳協会)から「MTユーザーガイド」のページ上で声明が出された。

これまで本ブログでAAMTの対応を批判してきたが、あまり自分のブログをネガティブな内容にしたくもないので、今回で取り上げるのは最後としたい。

これまでの流れ

まず、9/26の声明について言及する前に、これまでの流れについてざっとまとめる。

  • 9月1日:「MTユーザーガイド」のVer 1.0のPDFファイルが公開
  • 9月2日:本ブログの記事上で、「JTF翻訳品質評価ガイドライン」からの丸写しを指摘。私が丸写しされた部分の執筆者だったため気づいた
  • 9月15日:MTユーザーガイドのPDFファイルが差し替えられ、Ver 1.1となる。差し替えに関する公式アナウンスはなし
  • 9月16日:バージョン更新に関する公式アナウンスがない点について、本ブログの記事上で批判。また、ライセンス条件は満たすようになったものの、安易で中途半端なコピーで済ませようとする姿勢も批判
  • 9月26日:AAMTウェブサイト上に冒頭で示した声明が出される

9/26の声明

さて、9/26の声明についてだ。次のようにたった2文である。

MTユーザガイドVer 1.0について、JTFからJTF翻訳品質評価ガイドライン(CC BY 4.0ライセンス)の引用が適切でないとのご指摘を受け、MTユーザーガイド委員会が内容を修正し、JTF翻訳品質委員会に確認して頂いた上で Ver 1.1 をAAMTホームページに掲載しました。

Ver 1.0をダウンロードしてご利用されている方におかれましては、お手数をお掛けしますがVer1.1をダウンロードしてご利用ください。

(引用元:https://www.aamt.info/act/MTuserguide 2022-09-27アクセス)

まず、1文目にある「引用が適切でないとのご指摘」の部分だ。

引用とあるが、そもそもVer 1.0では定義や例が完全に丸写しだった。引用の条件を満たそうとしたが記載漏れがあったという種類では明らかにない。だから私は「引用が適切ではない」と指摘したのではなく、明確に「著作権侵害」だと指摘したのだ。

「引用が適切でない」という書き方には、問題を矮小化して誤魔化そうとする意図しか感じられない。


また、同じ1文目に「…内容を修正し、JTF翻訳品質委員会に確認して頂いた」とある。だが私個人が同委員会委員として人づてで伝えたのは、「CCライセンスの条件が満たされていれば、JTFは内容について口を出す立場にない」という回答だ。

もし内容について私の意見があるとすれば、9/16の記事で書いたように「JTFでは7つのエラー項目を設けているのに、なぜMTユーザーガイドには4つしかないのか?」という点である。この意見についてはAAMT側も知っているはずだが、声明中に回答らしきものはない。


最後に、この一件のAAMT側の責任者は結局誰なのだろうか? 普通、こういう声明には責任者名を出すだろう。都合の良いときは個人名を出して業績をアピールし、不都合な場面になると組織の裏に隠れて言い訳に終始するのは、なんと言うか、最高に「ダサい」のではないか。

なぜ怒っているのか

この著作権侵害について、私を含むJTF翻訳品質評価ガイドライン制作者の何人かは怒りを覚えている。私について言えば、同JTFガイドライン制作者側に対してまるで敬意が払われていないのが怒りの大きな原因だろう。

JTFガイドラインは、私を含めて個人翻訳者や翻訳会社社員が参加し、翻訳業界のために無償の奉仕活動として制作された。つまり少なくとも私は、金銭的対価など不要であるから、せめてルールや良識は守ってきちんと扱ってくれ程度の気持ちなのだ。

(なおJTFガイドラインの著作権のうち「著作財産権」はJTFにあるが、「著作者人格権」は制作者にあると私は考えている)

ところが、MTユーザーガイドVer 1.0では丸写しで著作権侵害をした。それを指摘された後、著作権侵害を認識していながら2週間も公開を続けた。そして、しれっとファイルだけをVer 1.1に差し替えて「なかったこと」にしようとした。さらに、指摘されてとうとう出てきた声明には、ごまかしと言い訳しか書かれていない。

こんな鼻であしらうような対応をされて怒るなと言われても、ちょっと無理じゃないか?


このように怒りは収まらないのだが、冒頭に述べたように、この一件に関する記事はこれを最後としたい。


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